日米のネット練炭心中
最近練炭による一酸化炭素中毒で死ぬ人が多いので、一酸化炭素中毒を調べてみた。
分子式はCOと単純。
常温では無味無臭無色の気体。
木炭などが不完全燃焼した時などに発生する。
血球中のヘモグロビンと強く結合し、ヘモグロビンの酸素運搬能力を阻害する。
第一段階、生体が酸欠状態になり、オキシヘモグロビンの欠如により、細胞が窒息状態になる。
酷い頭痛、眩暈、耳鳴り、皮膚が黒ずむ、脈拍が増える。
第二段階、細胞中のいくつかの酵素が一酸化炭素と結合し、炭水化物、リン、窒素の代謝が乱れ、原形質の蛋白質量が変化する。
中枢神経が犯され、正常な判断力を失う、手足が言うことを効かなくなる、脳障害、振顫麻痺(パーキンソン症)との事。
意外と怖いよ。
しかし、この現代で何故に練炭???
練炭は、昭和四十年代初め頃までは、炭屋なる商売があったらしい。
薪炭商といって、木炭の他、石炭や薪、炭団、豆炭、練炭等を売っていた。
其の後は、灯油やプロパンガスも扱うようになったが、ガスが一般家庭に普及するようになると、炭屋の一部はガス器具を売る店に変わっていき、多くの炭屋が廃業に追い込まれ、昭和四十年代中頃にはすっかりその姿も見られなくなった。
が、この数年、練炭がその存在を見直され、再び注目され始めた。
酸欠状態で燃焼させると、効率よく一酸化炭素を発生させられる特性を利用して、集団自殺事件が多発しているためだ。
流行一寸遅れのネット心中だ。
ネットで同志を募り、知らぬ者同士が集まって一緒に死ぬ、奇妙な現象。
はた迷惑この上ない。
昔の心中といえば、男女の情死とか、主義主張のための殉死が多かった。
相愛の男女が理由あって世を果敢無み、互いの生命を断つってのが相場で美しいと、日本人は思っていた。
だから、曾根崎心中のお初、徳兵衛、心中天の網島のおさん、治兵衛に憧れさえ抱いて真剣に恋愛していた。
三島由紀夫の憂国、渡辺淳一の失楽園、なども愛憎の果ての情死を扱っている。もちろんフィクションだが、有島武郎や太宰治のように、実際に情死事件を起こした作家おられる。
なんにせよ、日本人は昔から心中とか情死とか殉死に、日本特有の美学を見てきた。
無論、心中には情死居以外に親子心中、一家心中、無理心中といったバリエーションがあるが、いずれも陰惨が付き纏い、美意識の欠片も無い。
心中は情死に限る。
さて、練炭に戻ると、今の十代、二十代の若い世代で、本来の目的で使用された練炭を知る人は、キャンプ以外にいないはずだ。
練炭というのは、炭屋がなくなったと同時に、市場から完全に消えたはずなのだ。
つい最近までは、一酸化炭素中毒による自殺は、車の排ガスをホースで車内に引き込んでやるのが一般的だった。
其れが突如、練炭の復活。
アウトドア・ブームに支えられて、生き延びていたのだ、練炭が。
木炭はアウトドア用品の店とかホームセンターでよく見かけたが、練炭もホームセンターに潜んでいた。
そして、練炭を燃やすには七輪とが必要だ。
七輪に練炭なんて、ほとんど昔話の世界だ。
東急ハンズには置いてあったけど、あれは飽くまで、真面目なアウトドアライフのためだ。
これだけ練炭自殺が増えると、妙な眼差ししを店員に投げられ、あらぬ疑いをかけられ、店員に説教される。
わたしは単にキャンプで使いたかったのだけど、店長に説教された。
わたし的には、練炭ならミツウロコ、だ。
知る人ぞ知る有名メーカー。剃刀なら貝印、ってこだわりと一緒。
ミツウロコもまだまだ現存しておられます。
さすがにメインの商品はLPガスや石油になってはいるが、楽天を通じてネット通販で練炭や七輪を売っている。
ちなみに、練炭八個入り一ケースが千八百六十九円(税込み)、だ。
う~~ん、練炭自殺の流行は、インターネットの普及と共存共栄しているのか。
自殺志願者はインターネットで同志を募ると同時に、練炭と七輪もインターネットで調達する。
確かにこの手段なら、店員に説教されずに、こっそり入手できる。
しかし、練炭は何故現代にまで生き延びてこられたのか。
国内での消費はある時期から激減し、低成長のまま今日に至る。
が、国外、特に東南アジアでは、今でも結構需要がある。
薪に代わる燃料として、森林保護にも一役買っているのだ。
本来の原料は石炭だが、質の良くないとされる褐炭は、高水分、高硫黄、高灰分、低発熱量だ。
日本の技術が、これをクリーンにし、高火力の練炭製造に成功したことで、東南アジア諸国に広まった。
練炭自殺の流行はメーカーにとって甚だ迷惑だろう。
日本の底力を見せ付けるべき場面で、自殺の手段に使われちゃあ堪らない。
楽天だって迷惑だろう。
ネットで検索すると、抗鬱剤の広告を行なうサイトに混じって、自殺願望を持つ見知らぬ者どうしが、最高の死に方を相談し合う頁が数多ある。
最大規模の、オールト・スイサイド・ホリデイ(わざとカタカナ)、通称ASHアッシュ、は、ニューズグループ、チャットルーム、アスピリン、殺鼠剤に至るまで、ありとあらゆるものを用いて自殺する方法を教えるガイド・ファイルを備えている。
報道では、ASH絡みで最近も三件の自殺があったという。
だが亡くなった人の親族に対してワイアード・ニュースが行なった取材により、ASHに関連して他に七人の死亡が明らかになった。
だがそればかりか、ASH自体が、成功例として、さらに十四人の自殺者を掲載した。
ただし死亡したとされる人々は匿名にされているため、事実関係は確認できない。
ただ一人に関しては、証拠が存在した。
この女性は自殺する前にASHから一酸化炭素中毒で死ぬ手引きをダウンロードしていた。
ASHは、一九九一年にユーズネットの掲示板として始まり、其の後関連するニューズ・グループ、チャット・ルームが合流していった。
ASHの中心となっているニューズ・グループは、オンライン日記のようなものだ。
日本で言う書き込み場所、掲示板、今時のブログ。
訪問者は此処で、不幸な自分の感情を発散させ、互いの自殺計画についてコメントし合う。
またサイト内には、葬儀の手配、遺書の書き方に関するアドヴァイスの他、様々な種類の自殺について、苦痛の程度やどのくらい確実な方法かを算定する頁まである。
ASHのFAQ(Frequently Asked Questions よくある質問)では、このサイトを、
「自殺を禁忌と見なす社会の中で、自殺についてオープンに話せる場所」
と定義している。
自殺に肯定的なこのサイトの姿勢に疑問を呈する部外者は、「でしゃばり」とか「おめでたい奴」と呼ばれ、敵意を向けられる。
ある男性が、自分の息子がこのニューズ・グループに参加した後自殺した、と書き込んだ場合も容赦なかった。
Asher、つまり、ASHの参加者達は、自分達をこう呼ぶ。
或るAsherが、死を望む理由について、投稿者達に異議を唱えたときも、徹底的に嫌われてしまった。
「わたしが不満を持たれるのは、わたしが色々質問するからだ。わたしは彼等が死にたい理由を知りたいのだ」
と、カリフォルニア州南部に住む元会社員、ダグ・ワイザー氏(六十歳)は話す。
「ASHの他の人達は、参加者の意見に賛成し、動機を尋ねたりしない。
多くの場合、単にその場凌ぎの対応をしているだけで、誰か話し相手が欲しいのだと分かる」
自分自身二度の自殺を試みたワイザー氏は、ある状況においては自殺は仕方がないと考えるものの、一部の若い人が示す「死に対する無頓着さ」は容認できないという。
一時的なことかもしれない問題に対し、永久的な決着をつけようとするのを思いとどまらせるため、ワイザー氏は投稿者に自殺者のむごたらしい写真を送る他、投稿者と個人的にEメールを交わしたり、電話で話をしたりしている。
場合によっては、もう一度セラピーを試してみるよう説得することもあるらしい。
「彼らが投稿をやめたり、メールの返事をよこさなくなったとき、其れがニューズ・グループを去ったことを意味するのか、この世を去ったことを意味するのかはわからない。ただ、知られているよりもはるかに多くの人が死んでいるのは間違いないと思う」
と、氏は語った。
ASHのメンバーで、この記事の取材に応じたのはワイザー氏だけだったが、自殺したAsher達の遺族は、このニューズ・グループについて憤懣やる方ない思いでいっぱいだ。
「私の息子は、もしASHが存在しなかったら、今も生きていたかもしれない」とベティ・ジーン・ジェームズさんは言う。
彼女の三十歳の息子キンボールさんは、ASHで一酸化炭素中毒を使って自殺する方法を知った。
三月三十一日、キンボールさんは車でコロラド州の景勝地キャッシュラプーダー川を望むキャンプ場に行った。
そして車内に置いた二つの木炭レンジに火を点け、窓を閉め切った。
警察が彼を発見したのは、その四日後のことだった。
息子の死後、母親はASHに於ける息子のやり取りを全てプリントアウトした。其の中には、予行演習について書かれた投稿もあった。
「自殺する前の数ヵ月間、息子が何を考え、何を行い、どういう発言をしていたかを知りたかったんです」
と母親は打ち明け、キンボールさんはガールフレンドと別れて酷く動揺していたと付け加えた。
「もし息子がカウンセリングや治療を受けていれば、何とか乗り越えられたかもしれません。それなのにこのニューズ・グル-プは、命を絶ちたいと思う息子の気持ちに加担し、自殺は問題ないことだと思い込ませたんです」
悲痛な母親の叫びは、ASHに踏み躙られた。
ASHは今も生きている。
人を死なせるために。
随分前のニュースだが、引用させて頂きました。
ASHには絶対近寄らないでください。
知らずに入ってしまった方、騙されないように。
彼等は、他人の死を弄ぶだけ、決して自らは決行しません。
高みの見物です。同士でも友人でも先輩でもありません。
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