2005年夏の隔離病棟
拝啓ICUより。
いきなり話が飛んだようだが、昨日入院した。
夏休みに入って直ぐ行った、悪性リンパ腫の手術痕が、いきなり疼き始め、よーく見ようと股開いたら、ビリっと裂けた。
うえ……ゲロった。
誰でもゲロると思う。
だってね、だって……。
蛆が湧いてたンだよおおお~~~~!!!!!
不潔にしてたわけじゃない。一日二回シャワー浴びて、消毒液で消毒して、ちゃんとやってた。
原因は……。
「退院が早すぎたんですよ!!!」
と、医者の第一声。
「免疫力が落ちているし、時節柄こうなり易いんです。しかし此れは酷い。
入院です!!!」
う…もういい、中に出して!
「うっ、も、もう我慢できない!」
「あっ、いいのそのまま中に出して!」
「ふ、うっ!」
「全部出して!」
「……あ、あ~ん」
「嫌、恥ずかしい……」
「僕は気にしないよ、さあ足開いて」
「アン、あああ~いいっ!」
……こんなんの連続よ、真夜中のICUは。
ゲロをマグカップに吐き出したおっさんは、とてもすっきりしたようで、ナースに礼を言って再び鼾を掻いて眠り始めた。オムツに垂れた若い女は、しきりに恥じ入りながらも、排尿の快感に酔っていた。
あのなあ、こっちは眠れんぞ。
そういや、わたしってずーっとトイレいってない。ってか、チューブに繋がれていて、行こうにもいけない。ど~なってンだ?
恐る恐る下を見た。下っていっても水平だけど。まさか、わたしもオムツじゃないだろうなあああああ!!!!
あ、オムツのがまだよかった。
思い出した、すっぽんポンでした、わたし。
綺麗に剃られた○×△に、カテーテルが……その先にはビニール袋が……お~血尿。
殆どカゴメトマト一〇〇%だ。
今日は回診があるから、早く此処から脱出しよう。
真夜中のよがり声はもう、独り寝のわたしには刺激あり過ぎ。
Tバック・バージン。
ICU脱出は言いが、しかしなあ、六人部屋の真ん中だぜ、キツイぜ。
で、ストレッチャーか車椅子で移動と思ったら、点滴毎ベッド丸ごと移動だった。始発で駆けつけたママリンが三越バッグぶら下げついて来る。
が、わたしはノーパンノーブラ手術着Only!!!!
ノーパン&ノーブラ全開でガラガラ移動だもん、照れるわン。
昨日カテーテルを筈と訊いた。いつまでノーブラは許せてもノーパンは嫌だから。
が、手術の部位が部位だけに、フツーのショーツじゃ駄目って言うのよ、スケベ医者が。わたしはこのまま何日もノーパンで過ごすのかって詰問したら、信じられないお言葉。
「タンガ、っていうんですか、あの紐みたいなのならいいですよ!」
……なんで男のあんたが知ってンだよ!!!!
病院の売店にそんな刺激的なモン売ってる訳ないし、自分で買いにもいけないし、通販で頼んでちゃ日数かかるし、ナースに頼むか!? それとも……!!!?
「はい、わたし買ってきます」と、ママリン。
おいいいいい~~~~、若くは見えるがあんたもう五十過ぎだろ、恥を知れえええ~~~!!!
赤面したわたしだけど、ママリンに頼むより無い。ナースもあてにならないし。オムツよりゃよかろ~~~と赤面改め、ママリンにお願いした。ママは張り切って昨日十六時に病院から三越へ向った、らしい。
夕べ一晩、刺激的な言葉飛び交うICUで、独りわたしはわくわくしていた。
果て、ママはどんなの買ってくるやら???
ママリンは速攻で昨日Tバックを三越で買い、今日の始発で駆けつけてくれた。
が、移動には間に合わなかった。
ママはベッドに移るとさっとカーテンを引き、言った。
「さあ、穿きなさい」
その結果、いま穿いてまあすぅ~~~。
六枚も買ってきてくれましたあ~、ローズピンクに黒のレース、パーフルにレッドのフリル、イエローにグリーン総レースのすけすけとか……。
今現在、Tバック初体験第一号は、ライトブルーに黒のレース。控えめにしてみました。
だってわたしぃ、Tバック・バージンだったしぃ~~~。
しかしこれ、楽だわあ。今まで知らなかった開放感。ああ、もうわたしタンガから離れられない。
旦那が見たら鼻血ブシュかな。うふふ、夜の楽しみが増えた。ま、退院してからだけどさ。
あ~マジ退院したい。食事がね、駄目なのよ。病院の流動食は焼く前のシフォンケーキ生地みたいで、非人間的で、食べられない。
いまだ眼前に鎮座するポテサラや攪拌卵よりは、生ゲロもどきのがずっとよかった。
マジゲロ。
いきなりだった。
「其れ残すの、ちょうだい!!!」
と、唐突にお向かいさんから声がかかった。
「は? はい、いいですけど?」
「早く!!! 看護婦がこないうちに早く!!!」
おばさんだった。名前もまだ知らない。はっきりいって小太り。ぽっちゃりじゃない。密使るとか体脂肪に覆われた手が、わたしからトレイを引っ手繰った。
ガツガツガツガツ……ゴキュッ…ガリガリ……!!!
見事な食いっぷりだった。過食嘔吐していた頃のわたしみたいだった。
醜い……過去の傷を見せ付けられ、吐きダコを抉った痕が疼いた。
と……!?
「おううぇええええ~~~ゲロっヒック、グウェエエエエっ!!」
ビシャ! ベチャ! 丈夫そうなビニール袋に、おばさんは嘔吐し始めた。
ゲロのにおいが病室に立ち込める。誰も文句を言わないのか、周りを見た。
三人はカーテンを閉め、一人まだ重大らしき女の子は、平気でスナック菓子を貪り続ける。
ブシャッ!! ズバババ!!! オエっゲホッ……ハアハア……!
ベッド脇のポータブルトイレに下痢便垂れ、その上に吐く人がいた。カーテンの中でも分かった。昔、強制入院させられたときと同じだ。
ぼーっとしていたら、一膳食った後に袋目のポテチを空にしたティーネイジャーが、徐に立ち上がり、多分トイレへ向った。
此処は……精神疾患の……???
配膳したヘルパーが回収しにきた。
綺麗に平らげられたトレイを次々台に載せ、ガラガラと去っていった。
ゲロの臭気に動じない。ってことは、慣れているってことだ!!!
整形か外科に移されたと思っていた。
ママリンも唖然としてみている。
「此処、嗜好癖の病棟じゃない?」
ぼそっとママが言った。
そう、わたしは戻されたのだ。
依存症の患者の寄せ集め、ゴミ溜めの肥溜めのゲロ溜めの中に!!!
今日は日曜、担当医はいない、何故此処に戻されたか、訊こうにも訊けない。
首切り自殺未遂のお仕置きか、いまだ上がらない体重への罰か、食べようとしないわたしへの戒めか……?
はっきり分かった。
嫌だ!
言っちゃ悪いが、一緒にしないでくれ!!!
普通の過食嘔吐じゃないのだ! 食べて吐いたものを又食い又吐く、狂った世界なのだ!
頭がくらついた。
これから、ありのままを掻いていこうと思う。
気が向いたら、しんのおぞましさを味わって、疑似体験してください。
落ちる奴は底なしに落ちる……。
わたしが生息した部屋。
六人部屋である。元は余人部屋だったのを無理矢理六人にしたものだから、ベッドとベッドの間が非常に狭い。
その狭い隙間に、ポータブルトイレが鎮座している。
とりあえず、ご案内。
わたしの廊下側隣が草薙さん。トドだ。体重百二キロとか、痩せ~~~た旦那さんが言ってた。この旦那さんは毎日仕事帰りにやってくる。
草薙さんは怖い。直ぐ怒る。看護師にでもヘルパーさんにでも、何のかんの文句をつける。そして毎夜、旦那さんが謝っている。
但し、金持ちだ。きているパジャマもワコールだし、使うタオルもレノマとかブランド物ばっかり。
ポータブルトイレ使用。
そのお向かいが中嶋さん。眼鏡のおばさん。ぽっちゃり型。絶え間なくTVをぼんやり眺めている。決して笑わない。表情がない。何を考えているか全く分からない。加えて不潔この上ない。遠めからでもフケがバサバサの白髪混じりの髪に浮いているのが分かる。
これもまたポータブルトイレ使用。
で、わたしに向かいが横井さん。陽気なおばさん。いきなりわたしの残した朝食を引っ手繰り貪りカーテンも閉めずにビニール袋に吐いた人。とにかくよく喋る。だが九州訛りが強く、聞き取れない。しかし適切な相槌を打たないと怒る。
その隣がリカ。一番話が合う。まだ十七歳。学校が厭でリスカを繰り返す過食嘔吐者。本人は病院での嘔吐は気づかれてないと思っている????のか、ちゃんとトイレで吐く。だが、お掃除おばさんがしょっちゅう悪口を叩いている。
「吐くなら洋式吐いて欲しい、和式だと飛び散って掃除が大変」云々。
で、わたしの窓際隣ブラジル出身グリセルダさん。この人は異常なまでに無言。旦那さんらしき男性が毎日来るが、その人ととも喋らない。ヘルパーさんが何を語りかけても、医者が問診にきても、喋らない。だが、子供はちゃんと日本語を喋る。お姑さんらしい人もちゃんとしている。
一応此れだけがわたしの狭い世間。他の病室の人とのほうがよく喋る。
たぶん、その人の何らかの嗜好癖を知らないから、喋れるのだろう。
しかし最近の過食嘔吐者の増えたこと増えたこと。
鬱病より多いのでは???と思う。
鬱病は、昔仮面鬱病という言葉があったが、現在は仮装鬱病者が多い、と、精神科医がぼやいていた。
CMであっけらかんとやりすぎだ。鬱なら一ヶ月、だの言って撃つを煽り立てるから、鬱病でもなんでもないただの怠け者が「わたし鬱です」と、告げに来るという。
医者は検査結果、何らホルモン異常もなく、心電図も血圧も脳波も全部正常で、ああやっぱりと思い、カウンセリングに移行する。
「最近悩みは?」
患者は喋りだす。医者が止めてもしゃべり続ける。その点では或る意味異常かも知れないが、鬱病ではない。仕事や家事や通学に支障はない。
と、医者が無病宣告すると……!?
「ナンだって!? わたしはこんなに頭が重くて気が重くて胃が破れそうで、気分が落ち込み何もする気になれず、こうしてやってきたのに、病気じゃないって? 健康だって? それじゃあ此処に来た意味ないだろう~~~!!!!!」
と、喚き散らす。手におえない。この病室の草薙&中嶋&グリセルダが其れだ。医師が困っている。出て行かないのだ。
三ヶ月ごとに病院を点々として、またやってきたらしい。
そしてポータブルペアは兎に角汚い。
としか言いようがない。
草薙は(もう呼び捨てます)食事中、ズーッズー鼻かんで、ついでに箸持ったまま、カーテン一寸だけ閉めて、ポータブルトイレを使う。
しかも音が凄い。
ZUBABABA~~~~!!!! ZAPA! JO~~~~~SYA~~~BUSUBUSU!!! BURIBURI!!! SYA~~~~……。
で、鼻かんだティッシュでササっと拭くだけ。でm持ったままの箸でまた食い始める。手も洗わず、だ。臭いそのまま立ち込めて、平気。
信じられな~~~~い!!!!
草薙の向かいの中嶋も、ポータブルトイレ愛好者で、兎に角不潔。毎朝暑い押し墓地タオルが体洗浄用に配られるのだが、十秒足らずで拭き終える。一度わたしが来てから、医者が血液検査をしたら、うようよ黴菌群がいたと叱っていた。
ナースも、ポータブルットイレを開けっ放しなので叱っている。が、へへへと口をゆがめるだけ。言語を発しない。笑わない。笑われても困るが、笑わないのも困る。
この二つのポータブルトイレが、わたしの食欲不振の原因。当たり前だ。
だが、皆食う!!!
内三人が吐く!!!
要するに、廊下側二人はポータブルトイレ、窓際二人と真ん中は吐く。
ただ、リカだけがトイレで吐く。グリセルダはカーテン閉めてゲロ専用ポータブルトイレで吐く。トイレは別途行くのだ。
においが染み付きそう。
出せ!!! 俺を此処から出せええええ~~~~!!!!
この現実。
夏休み最後の日曜日と言うことで、駆け込み自殺未遂者が相次いだ。
いや、正確には未遂者ではない。
だってやつ等にゃ、死ぬ気なんてさらさらないのだから。
そうじゃないすか?
リスカ自慢しあう近頃の若者は、自分の血を見て安心すると言うし、わたしもそうだが、本気で死ぬ気はない。
本気で死にたいなら、首吊りか切腹する筈。わたしは両方やったが、それでもまだ本気で死ぬ気はなかったと思う。
だって、首吊りのときは、両手を首をロープの間に挟んでやったし、切腹だって抉らずに刺しただけだった。(充分か?)
それでも本気で殺されそうになったときは怖いと思った。
インフラ整備で、イラクのバグダッドへいっていた頃。足を撃たれた。
まだ破片が埋まっている。
リスカ自慢するRチャンに、わたしの腹を見せてやった。
絶句した。
無数のミミズが這うこの体、どーーーーだ!!!
ナースが言う。
「もっとみせてあげて、そのためにあなたは此処に来たんだから」
え????
わたしは見世物? 見せしめ? 金取るぞおおおおお~~~!
此処は隔離かも知れない。
いや、間違いなく準隔離だ。
だって地下にある。窓は小さいのが二つ、天井近くの高さにあるだけで、ジメって暗い。
窓の外を眺めていると、外を歩く人の靴と足が見える。
雑草も見える。
つまりわたし達は雑草以下の存在、隠して置かねばならない、見るに耐えない存在、だ。
分かっているし、分かっていた。
飛び降り防止のためでもある。まあ、わたしは食料など貨物搬入口から、結構自由に屋上まで延々階段を上り下りしているけど。
リカも大抵一緒だ。リカはわたしにくっついて離れない。多分、まともに話が通じる人間を欲していたのだろう。
わたしはママリンが来てくれるので、助かっている。何とか正気を保っている。ママリンはわたしをこの世と正気に繋ぎとめる鎖だ。
重くてきつくて苦しい、でもかけがえの無い鎖。血の繋がりに関係なく、体当たりでわたしとぶつかってくれる、大切な鎖。
大事にしたいのに、偶に傷付けてしまう。
ママリンは泣きそうになり、偶に泣きながら、其れでもわたしを放さずにいてくれる。
こんなにも深い愛情に包まれていたなんて、今の今まで知らなかった。
きっと、途中でこの閉鎖病棟のおぞましさに負けて、来なくなると想っていた。内心其れを願っていた気もする。
其の訳は、責めたいから。何でわたしを生かしておくのか、何でわたしを殺さなかったのか、何であんたなんかが母親面しているのか、何で身元引き受けなんてしたのか、何で手術に同意したのか、何で救急車を呼んだのか、全部全部、思い通りにならず、悔しくて恥かしくて情けなくて。
だから責めたかった。誰でも良かった。思い切りわたしと喧嘩してくる人が欲しかった。叱って欲しかった。怒るのでなく、叱って欲しかった。
丸で飼い犬だ。ご主人様のご機嫌を撮らねば餌を貰えず死んでしまう、脆弱な犬畜生だ。
だが、わたしが子供代わりに買っている、というか一緒に暮らしているわんこを、畜生と思ったことは無い。わんこもまた、わたしを死なせない三大原因の一つだ。
一位はママリン。どうやってもやしなってもらった恩は忘れられないし、今、心底母親なのだと、守り守られる関係なのだと、強い絆を実感している。
二位はわんこ。るーというウェルシュコーギー、ブリーダーも所へ五年間も夫と通い、この子!と閃いた大切な、産んではいないけど同じくらい手間隙掛けた、大事な子。
三位はやはり夫だ。散々殴ったり蹴ったりしたけど、わたしが二十五キロまで痩せたときには、すっかり優しい男に変わってしまっていた。メタモルフォーゼといっていい変貌だ。
後は、此処まで落ちると、どうでもいいものばかり。
どうでもいいといのは、わたしを必要としない人達、の意味だ。
兄も叔父叔母も義父母も大切だが、わたしを必要とせず、わたしがいなくてもやっていける。
ママリンはわたしが先立ったら瞬時に死ぬと宣言した。本当にやりそうだと、今なら思える。
わんこは私以外に懐かないので、辛うじて生きていくための最低手段としてママリンか夫を利用しても、決して満足を得ない。
可愛過ぎ。でも、わたしもるーが死んだら、生きていけないくらい悲しい。其れを補うのが夫だ。
夫は必死に今償っている。よく分かっている。でも苛めてしまう。
やりきれない重い思い、秋は一層物思いを誘い、辛い季節だ。
駆け込み見舞いが相次ぎ、おまけにモバイルのバッテリーがイカれ、いいこと無しのわたしに、今日の夕方衝撃が走った。
いつもTVを見せてもらっているオッチャンが、わたしのケツを撫でるので、Tバックを自慢したら、とんでもないものを披露してくれた。
「お前がいっつも楽だ言うとるで、俺もネットで買うてみたわ」
「何を?」
「これだわ、これ!」
Oh! My god~~~~~~~~~~~~~~~~~!
「何言うとんのだ? おおまいが?」
「嗚呼神様って叫んだの!」
「そうか、神様にも見せたるか? ええだろ? これ?」
「なんだそりゃああ~~~~!?」
「ええだろ? 俺も若返るわ、ははは」
オッチャンは自慢げに言う。わたしは慄く。見せンでいい!!!
こんなものがこの世にあったのか!? 知らなかったのはわたしだけで、真面目な面して経理やってるアイツモソイツもこっそりこんなものを穿いているのか!?
何だか世界が広がった。
この世にはわたしの知らない禁断の領域が一杯あったのだ。嗚呼わたしなんてまだまだ小娘ね。
と、泣き寝入りした夜が明けたか明けないかの午前四時、同室の横井おばちゃんにたたき起こされた。
「はるちゃんっ!!!!」
「はいよ~?」
「ちょっとっ、外見てよ!!!」
「へいへい???」
「曇っとる!!!」
「はあ???」
どうも横井おばちゃんは、自分が退院するめでたい日に、お日様が祝福しないのが気に入らないらしい。
そういわれても……。
「許せん!!! あたしが退院するってのに!!!」
とセツおばちゃん。ちなみに呼びかけるときは皆「ヨッチャン」、いないときの三人称は猛烈おばちゃん、怖いのだ。
ついでに九州訛りが強くて、何喋ってるかまったく分からん。
なのに相打ちを間違えると、叱られる。否定形で返事をすると、怒鳴られる。
食事の内容が、わたしは痩せ方なので同じカレイでも唐揚げだが、おばちゃんには煮付けだったりすると、怒る。
やっとご機嫌取りから解放されるときを抜いていたら、朝っぱらから怒鳴られた。
デイルームに一人で行くと、スモーク仲間が聞いてきた。
「どうだった?」
「今日くらいは機嫌いいだろ?」
「なんて難癖つけた?」
「曇っとる!!!……だって……」
皆に笑いをくれて有難う。
なんて明るい癌病棟。
貴方のおかげよ、よっちゃん。
そんでママリン、甘~~~~いケーキの数々有難う。
自分が食べたかったのね、そいで皆に配って人気者になりたかったのね、実の娘のわたしが甘いもの食べられないと知っていてこんなに買ってくるなんて。
しかし、ママリンはやはり娘思いだった。
こんなのまでしっかり買ってきて、「着て見せて」とせがむ。
親の頼みだ、一丁穿いたるかい!
って訳で、今ひらひらTバックです。
誰が正気か?
此処にいると、誰が正気で誰が狂気か、分からなくなる。
患者は当然のように吐くし、他人の食べ残しを回収に廻る。
ナースやヘルパーは愚痴るだけで叱らない。
其れが此処の治療法らしい。
前この病院の違う病棟にいたときは、心療内科で、認知症の人が多く、オムツの臭いなんかが厭で、文句を言ったが、此処は違う。
まともな人間がいない。
昨日月曜だったからか、面会者が誰一人いなかった。
わたしのママリンだけだった。
来るなといっておいたのだが、ママリンは毅然とやって来た。
「だって、わたしも一緒に戦わないと、あんただけじゃあ、また、何も知らない癖にって文句言うでしょ」
ああ、わたし一人ぼっちじゃなかったんだ……過去のことや出生、血の繋がりなんてどうでもいい、この泣くだけだった優しい人は、強く、逞しく、そして以前優しかった。
食事はプレイルームで摂ることにした。
あまりに強烈な臭いと光景に圧倒され、私は珍しく負けた。
因みに今日は、こんな感じ……ウフッ♪
黒tバッックだワン。
って、ふざけてる場合じゃない、又やりやがったのだ、りかちゃんが。
真夜中に突然泣き出して、人騒がせて、挙句に
「こっちこないで!!!死んでやる!!!」
と喚き、ホントにスカッツ……!
勿論マジで死ぬ気なんかない。リンゴ剥くナイフで手首横に切ったって死ねない。
承知の上で、やるのだ。
ナースの気を引きたかったのだろう。
わたしという新入りが入ってきて、ナースと仲いいから。
縫うほどもない程度の傷だったらしい。唯、入院時にやった傷に重ねたから、縫い直しになっただけ。
馬ーーーーーーーーーーーーーー鹿。
としか言いようがない。
だってだって、彼女は知っていないのかわざとなのか、工学治療費を親に払わせ出ている。何度も書いたが、自傷行為は保険適用なし、加えて二百%の加料がある。
今日だけで親はプラス五万円は払うだろう。
そう言うと、「知ってるよ」と呆気羅漢。
「親への復讐なんだ、あたしを全然構ってくれなくて、成績が著落ちたくらいで、塾増やすし。それも数学が五から四になっただけだよ。十分いいほうじゃん」
「でもさあ、親は全然気付いてないと思うよ、あんたの復讐に」
リカは凍った。
「だってね、親なんてのは産み捨てる権利だってあったわけよ。其れをお情けで此処迄育てた貰ったんでしょ。もう充分ってのは、親のほうが思ってンじゃねえの? 好きでお前を産んで育てたんじゃねえって、親の言い分よ」
「そんなんあり? だってあたし隙であの人たちの家に生まれたわけじゃない! あの人たちのSEXの結果でしょ!? 責任あるじゃん!」
「あたしは生後二日で施設入りしたけどね。あんたは手元に置いてもらえたんでしょ? それってわたしから見ると羨ましいけどな」
「あたしは姉さんが羨ましい! 一人で生きて行けるもん! もうこの身体なら売れるもん!」
「遅いって、今の流行はね、ランドセルの小学五年生をバックでヤルの」
「……何よ、オッサンはアタシのパンツ目の前で脱いだの二万で買ってったよ」
「セーラー服好きだっただけでしょ? あんた、単に家のトイレでは句の禁止されて困って、リスカしただけだろ? 本とに死にたいなら、ホレこうしてみな」
わたしは自分の切腹痕を見せた。
リカはまたも絶句していた。だが今度はじっくり見た。触った。
盛り上がり熱をもつこの傷痕を。
「姉さん本気で死にたかったの?」
「違う、わたしはわたしを殺したいだけ。死ぬ気はない」
リカは笑った。明るい声だった。五時間前のあの釣りあがった目とは全く違う、ロリコン好きならたまらないであろう、大きな丸い目を細めて笑った。
「姉さん、分裂してる」
「そう、わたし多重人格だから」
「あ、其れ夕べTVでやってたよ、実録多重人格とかって」
「触り覗き見したけど、あんなのまだ軽いよ」
「姉さん見てるとそうだね」
今度はわたしがガクッとした。
「姉さんころころ変わるもん。話し方や声まで変わる。ああいう時って自覚あるの?」
「ない、あったら止まる」
「そっかあ~~~!きゃははっ!」
笑うなよ。
そのためにわたしはここの放り込まれたのだ。
此処は一般病棟じゃない。鉄柵が窓に嵌った、更生施設だ。アル中、パチスロ中、ヤク中、過食嘔吐、拒食、過食、自傷行為常習者など、家庭ではもうどうにもならなくなった者を寄せ集め、一気に薬漬けにし、ヤクやアルコールやパチンコを抜き、摂食障害者には互いの醜さを見せ付け合い、自殺常習者にはその経済的負担を思い知らせ、治していく荒療治の病院だ。
わたしが子供の頃、気違い病院といってたこの病院に、今わたしはいる。
その事実だけでも充分にお仕置きだ。
今日は担当医が来る。午後になるが聞いてみよう。
何故、わたしは此処に入れられたのか?
小児病棟。
まだあどけない子供達の心が病んでいる。
昨日知り合った、十一歳で早くも過食嘔吐のかなり進行したヒロコは、今現在23キロ、骨と皮だ。
其れでも彼女は自分を綺麗だと言い張る。
点滴も引き抜く。糖衣錠も洗ってから飲む。
そのくせ、滅茶苦茶大量に食べる。
母親が買ってくる菓子やら甘いパンやらを食って食って食い捲くる。
そして吐く。
やはり本人は誰にも知られていないと考えているようだ。
食べて、其れも吐きやすい菓子やパンやハンバーガーを母親に買ってこさせ、病院の食事を母親に食べさせ、吐きにトイレへ行く。
リカと似ている。
ただ、ヒロコは罪悪感の欠片も無い。幼さの所為だろう、両親が抱える経済不安を全く考慮していない。
昨日ヒロコが吐いているとき(通常三十分は掛かる)母親に訊いてみた。
「今日だけで幾ら使いました?」
「……五千六百円くらい」
五千六百円が安いか高いかは、個々の経済状態に因るが、わたしは毎月の食費が参禅を上回ったことが無いので、高いと思う。
???と思われる方へ。
過食嘔吐中でも、ずーーーーっとわたしはお勤め品しか買わないし、パンは耳だったし、バナナも五十円で一パックのだし、米は食わない、加工食品は食わない、安い減量で自作していた。だから安くて済んだ。
これは一人暮らしを早くから始めた所為だろう。いや、お陰、か。
だからヒロコ一人で一日平均五千一寸というのは高すぎると思う。
実際、父親は怒っているらしい。
「吐くなら食うな!!!」
「分かった、食べない」
その繰り返しで、ヒロコは超拒食と超過食を交互にして、学校からも言われているという。
「異常です、給食は絶対食べません」
と、担任に言われ、母親は思い余って打ち明けてしまった。
「あの子、食べては吐くんです」
「過食嘔吐症ですか? わたしの手には負えません、入院させてください」
ああ、やっぱり。わたしの感想。
自分の担任する児童に死なれては困るのだ。しかも、殺人や事故ならいいが、精神疾患などで。
「校長から許可を貰った」
「出席しなくていい」
「何とか平均体重の一割減まで戻してくれ」
「中学までに治さないと内申書に響く」
責任逃れの脅しだ。
ヒロコの両親は、この言葉で参ってしまい、此処へヒロコを放り込んだ。
父親は一度も着ていないらしい。
母親はパートを病院近くの店舗に変えてもらい、その廃棄を持ち、安売り品を買占め、毎夕やってくる。
夕方に一日分の食糧を買ってやってくるのだから、凄い。
母親はキティちゃんカートを引いてやってくる。リュックも背負っている。
中身はといえば、吐き易い三つで百円のコロッケ、百円均一菓子、ツナ缶、そして賞味期限切れの大量のパン。
潰れていても平気だ。味なんてヒロコは構わない。おにぎりを買ってきたら激怒したという。
「ご飯は喉に引っかかってやだ!!!」
自白したようなものだ。
それだけ幼いのだ。なのに痩せ願望は膨らみ続ける。
わたしから見ると、やせ願望の強い子は、ぽちゃぽちゃのものに惹かれる傾向にある。
例えばぬいぐるみ、キティちゃん、ピカチュー。
どれもお世辞にもスマートといえない体型だ。
痩せたいくせにくびれの無いものを可愛がるのは、どこかぎこちない。かみ合わない。おかしい。
「わたしを見て嫌がるんです」
母親が言った。
確かにお母さんはぽっちゃり型。ついでに撫で肩、出っ腹だから、サザエさん一家のようだ。
ヒロコはそんな両親の体型を恥じているようだ。
「友達に、お誕生日会のとき笑われた」
と、機能の朝いっていた。出会って直ぐだ。出会って直ぐから、ヒロコは両親の悪口しか話さない。
裏返しだろうか?
本当は忙しい両親に構って欲しいのでないか。甘えたいのではないか。
そう母親に言った。すると……。
「あの子がそんな可愛いこと思うはず無い!!!」
まるで、知っているのに知らぬ振り決め込んでいて、その痛いところを突かれたような反応だった。
皆が可哀想だ。
救いはいつかくるのか、先に誰かが死ぬだろうか、それとも……。
「わたし、あの子を殺すかも知れない。だから入院させたの」
母親が本音を漏らした。
もうやっていけないという。自分のパートの日給より高い食料を娘に食わせ吐かせている、その異常事態に、母親はもう耐え切れないのだ。
父親は詰るだけ。
どこも此処も同じらしい。
退院後は知らない。無責任だが引き受けられるほどの度量を、わたしはもたない。
神様に聞いてみた。
わたし達を愛してる?
横井の叔母ちゃんが退院してから、一昨日の月曜日、新入りが来た。
思い切り弾けている、女子高校生だ。
可哀想なくらい、食欲がある。寝ても醒めても食べのもので頭が一杯、というか、寝る間も惜しんで食べている。
はっきり言って、デブ、だ。
過食嘔吐しているのに、吐きタコまでできているのに、上手く吐き切れず、太るのだと泣く。
「なら食うな」
の一言しかない。
ああも人は食欲に支配されるものか、と、改めて過食症の恐ろしさを思い知った。
兎に角、食う。
食って食って食い捲くる。
わたしの食べ残しやグリセルダの残飯はもとより、リカのお菓子を盗み、果てはカーゴ内の誰かの残飯を漁り、ついに売店で万引きした。
「どうしてもポッキーが欲しいの、マロンは今限定なの」
は???? と、思っていたら、草薙のトドが説明してくれた。
「毎年、月見バーガーみたいに期間限定で発売されるポッキーなの。毎年各メーカーが競い合って秋の味覚を刺激するの。ついでに職種も疼くのよ」と。
う~~~ん、月見バーガーは分かるが、ポッキーが罪を犯してでも欲しがるべき価値あるモノなのか???
「あたしも好きだよ、毎年盗むモン」あっけらかんとリカは言う。
誰が正気で、何が正しくて、何が狂っているのか、分からなくなった。
わたしが十六年も過食嘔吐をしてこられたのは、多分、人間として最低のレヴェルを保ったからだと思った。
もし一度でも万引きしたら、癖になり、金も掛からないので止め処がなく、際限なく食べて吐いてしていただろう。
そりゃあ、自費でも朝から晩まで食べていたのだ。唯、出費を恐れて、廃棄品やらお勤め品やら、飲食店で客の残り物やらを掻き集めて、食べて吐いていた。
屈むだけで吐けた。もう条件反射だ。食べれば吐く、おかしな習慣が自律神経の一部となり、呼吸と同じ感覚で無意識に吐いていた。
辛くは無かった。喜びに溢れた毎日だった。毎日毎日飽きもせず、パンの耳でサンドイッチ作って、マヨネーズたっぷりにして、はちきれるほど食べて食べて、吐いた。
そして痩せた。
羨ましいといっていた人が、だんだん遠ざかり、最後はコンビニ来店拒否された。
「あんたが触ったモン、気持ち悪いから全部買ってってよ、もう二度と来ないでくれる? 他のお客が気味悪いってさ」
わたしは金を払っても来るのを拒まれる存在になっていた。
ぞっとする骸骨顔だ。でも、其れが美しいと信じていた。ママリンの姉と間違われるくらい老けて見えてたのに。
今は拒食状態。子供の頃、施設でのマナーが厳しく、食事の時間は即お仕置きの時間へ直結していたので、食事の時間が嫌いだった。
給食もいつも残していた。そんなわたしが何故か食嘔吐に走ったか?
実は自分でもわからない。吐くために詰め込んだ食べ物は、確かに其のときは美味しかったが、今食えといわれたら絶対拒否するだろう、高脂肪、高カロリー、栄養ゼロのものだ。
うん、拒食は繰り返すにしても、過食はもう絶対やらない。この入院でつくづく思い、誓った。
あんなおぞましい真似は嫌だ。食べて吐いたものをまた食べる、其処まで落ちなかったが、今度過食したらやらないとは限らない。
糞尿の沈むポータブルトイレに顔を突っ込み、糞の上に吐き、其の原型の残る吐瀉物を手ですくって口へ運び、噛み締め、嚥下する……嫌だ、絶対嫌だ!
何より、わたしとこの世を繋ぐ三大原因達のため、すべての北房を此処の拭い落として、退院してやり直そう。
まだ間に合う、わたしはまだやれる。
信じている。誰でもない、自分を。
退院の朝は。
退院者の恒例、朝のコーヒーミルクパックを喫煙&屋上仲間に奢ること。リップサービスも無料でした。
わたしの時給は高い、大盤振る舞いだ。ジョークの嵐だ。
リカはケタケタ笑っていた。こんな笑顔、親にも見せなくなってどのくらい経つのだろう。
リカはわたしを「透けパンオネエ」と呼ぶ。わたしの言うことはよく聞いてくれる。
今日も不味そうな病院飯を美味そうに食べていた。其の後菓子。んで嘔吐。今日もリカは変わらない。少し自暴自棄気味だった。
温かいご飯や味噌汁など、小学三年で塾通いが始まってから食べていないそうだ。
ママリンはが手作りポテチをキティちゃんのセロファンで包み、夜食用の三色おにぎりと一緒に、プレイルーム仲間に差し入れした。
「毒入ってないかあ~~~」とかいいながらも、皆上辺は喜んでくれた。内心はわからない。こんな風に親を含めて他人全員を疑うようになって、わたしもどのくらい経つだろう。
リカには、わたしのようになって欲しくない。騙されてもいいから騙して欲しくない。酷なことを言うが、身勝手なことをほざくが、もう人格崩壊を見たくないのだ。
最後にリカと屋上へ行った。新入りもついてきたがったが、断った。
リカと話があったのだ。
「君さ、自分は頭悪いって言うけど、あややの歌はフルコーラス覚えてンじゃん」
「だって好きだモン」
「好きなものなら覚わる頭は、悪いとは言わない。認知症や精神薄弱の人に失礼だ」
「だって皆あたしを馬鹿だって言うよ」
「なら言い返せ、日本語が出来て英語できない道理はない。此れからど~すンだ? 何時までも入院してたら、単位落とすぜ。落第したら、ガッコ辞めンだろ。其の後ど~するよ? 悪いがわたしは忙しい。今まで見たいには面倒見てやれねえ。自分で生きられっか? できんっつーてもするっきゃねえけどな。やるな? 自分で。入試が待ってンだぜ、のんびりカショっている暇はねえ」
「だって出来ないもん」
「命令、二度とわたしの前で、だって、を使うな。もう一つ、わたしは出来るか出来ないなど訊いていない。やるかやらないかを確認している。どうだ?」
「だっ……あ、そんなん無理だって」
「無理かどうかは入試が決める、君はやればいいだけ。努力はダサい? 失敗したとき格好が悪い? いいじゃん、笑われたって、どうして怖がるよ?」
「これ以上惨めになりたくないもん」
「何もしない今が、君の人生のどん底だよ。でも人生ってのは底なしでね、もう此処が最低最悪だと思っても、もっともっと考えもしなかった悪いことが湧きあがってくる。今は序の口、君はこのままだと今想像もできないくらいの惨めさを味わう」
「先生は何のかんの言ったって勝ち組みじゃん、落ち零れの気持ちなんて……」
「痛いほど分かる。わたしだって落ち零れてた。今なんか君の数百倍悪い状況にいる。わたしには父親がいないし、頼る人は誰もいないし、皆から嫌われている」
「ンなことないよ、此処でだって楽しそうだったじゃん」
「君はまだ他人を信じる余地が残っている。わたしにはない。今君と話していても、わたしは君を信じていない」
「キッツ~~~」
「世間ってのはいつだってキツい。こんな現代に生まれた不運を呪って、諦めてダサくカッコ悪く目一杯努力しろ。今やらずに逃げたら、逃げ癖が付く。逃げ癖がついた奴は、人生絶対負ける。何やったって、宝くじで三億円当たったって、其れは負け、自分の手で勝ち取ったもの以外、この世で確かなものはない」
「もういいよ、聞きたくない。今日変じゃん」
「時間がないから急いでいる。わたしの五年後生存率は低い」
会話も時間も止まった気がした。
そう、わたし自身、認めてはいるが他人に告げたのは初めてだ。母親も知らない。
「わたしはこの五年後生存率ともう十五年も付き合っている。だから、いつも、今だけ見ている。次の瞬間死んでも後悔しないよう、蛆虫の悪あがきを精一杯している。とっても惨めだぜ」
この惨めさは、確かに余命宣告された人間以外分からないだろう。
わたしは試験に合格しようと法律を学ぶ。其の試験の日まで生き延びているか否か不確かなのに、がむしゃらに気張っている。
其れがどれほど残酷で、虚しくて、馬鹿げているか、自分が一番知っているが、頑張り続ける。
「棺桶の中で後悔したくない、それだけでいいだろ、頑張る理由なんて」
ほそっと漏らした、わたしの本音は、リカの心に少しだけ響いたようだった。
明日がくるかどうか分からないのは、命あるもの皆同じ条件だ。元気も事故死するし、病気でも事故で生き残るし、自殺を試みても失敗するし、生きようと臨んだ手術は失敗する。
わたしの馬鹿は、死んだら治るだろうか。
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