Sunday, June 22, 2008

喰うも地獄喰わぬも地獄

リンジー・ローハンが摂食障害であることを認めたそうだ。(Yahooニュースより

正直、やっぱりね。というのが感想だ。なぜなら、彼女はずいぶん前から太っただの激ヤセしただのと、体型に関するゴシップには事欠かない女優だったからだ。上記リンクの記事に寄れば、彼女は食欲異常をきたすブリミアにかかっているということである。

このブリミアとは、正式名称をBulimia Nervosa(ブリミア・ネルヴォーサ)、神経性大食症という。要は過食症のことだ。しかし、簡単に過食症(俗名)と言っても、「あなたはブリミアです」と診断が下るにはいくつかの基準を満たしていないといけない。その基準は(一応)統一されていて、「DSM-Ⅳ」というアメリカ精神医学会が発行している診断基準のマニュアルに書かれている(詳しくはこちら)。

たとえば、このブリミアであるなら

「A)むちゃ食いのエピソードの繰り返し。むちゃ食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる。

①他とははっきり区別される時間(2時間以内の間)に、ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量よりも明らかに多い食物を食べること。

②そのエピソードの間は、食べることを制限できないという感覚(例:食べるのをやめることが出来ない。または何を、どれほど多く食べているかを制御できないという感じ)。

B)体重の増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返す。たとえば、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸・またはその他の薬剤の誤った使用、絶食、または過剰な運動。-以下省略-」(APA、高橋ら訳、1995)

以上のような所である。他にもまだ基準があるが、簡単に説明すると、とても信じられない量の食事を2時間以内に食いまくり、そして一気に吐いたり、 下剤で出してしまったりする症状(これら代償行動を伴わないタイプの人もいる)が一定期間以上続いている場合をさして、ブリミアと診断されると言っていい だろう。

ブリミアが大食症であるならば、もう片方、拒食症もある。そちらは、正式名称をAnorexia Nervosa(アノレキシア・ネルヴォーサ)、神経性無食欲症という。こちらは、とにかく食べない。必要最低限以下、下手すると死亡してもおかしくないくらい食べない症状を指す。DSMでは、「期待される体重の85%以下の体重が続くような体重減少の状態」とされている。そして、それほどに体重が減って痩せているのに、本人がそれを否認すること。体力的にヤバいにも関わらず、過剰な運動・活動を行うこと、などが特徴的とされている。

これら二つ、ブリミアとアノレキシア・ネルヴォーサは、まとめて摂食障害と言われている。どちらか片方だけしか発症しない人もいれば、過食と拒食を繰り返し、両方を発症する人もいる。どちらにせよ、とてもとても苦しい病気だ。そして、その多くの罹患者が女性であると言われ、現在日本でも大変多くの人が摂食障害を患っている。

しかし、この摂食障害の歴史は意外と浅い。「心因性」の「病気」として扱われ始めたのは、1930年代~40年代のことである。その後1987年に なって、ブリミアが「神経症」として分類される。しかしながらこの時点(’87)では、発達障害というもっと大きな病気の中の下位診断として記述され、そ れ自体が独立した病気とはされていなかった。最終的に今の形(過食・拒食ともに独立した病気とする)に落ち着いたのは、1994年のこと。本当についこな いだの事である。

人は、おなかが空けばものを食べ、胃がいっぱいになれば食べるのをやめる。それは当たり前のことのように感じられるし、実際、意識しなくたってそのように生活していけるのが普通である。だが、世間一般の人が考えているほど、摂食行動というのは簡単なものではない。もっと、ずっと複雑なものだ。たとえば、おなかが一杯でも目の前に極上のウニ・トロがあったらどうだろうか?きっと食べてしまうだろう。逆に、おなかが空いていたとしても、自分一人で寂しく食事・・となると、なんだか食が進まないということもあるだろう。

「パブロフの犬」の実験で有名なロシアの生理学者パブロフは、犬を用いた「偽給餌法研究」という興味深い研究を行っている。この研究は、犬の食道を切って、体外に出してしまった状態でエサをやったらどうなるか?という大変残酷きわまりない実験である。このような状態で、犬がエサを食べると、食道は体の外に出ているのでもちろん胃には入らない。つまり、おなかは全然一杯にならないのである。なのに、犬自体は、「あぁメシ喰っておなかいっぱい~」という感じで、それ以上食事を取ろうとしないという。これは、非常に面白い結果だ。つまり、胃が一杯かどうかでは、摂食行動を左右することにはならないのである。

心、頭(脳)、体は相当複雑に絡まり合っており、気持ちや環境の違いで、摂食行動には大変大きな影響が出る。一筋縄では考えられないのが、摂食行動だといえるだろう。

この摂食障害という病気は、非常に治りにくいといわれている。確立した治療法がまだ無いのである。しかし、うつ病の患者に投与されるSSRIが摂食障害にも効くことから、どうやら脳内伝達物質であるセロトニンが摂食行動に影響を及ぼしているらしいということがわかっている。セロトニンが働くと、食欲が抑えられるそうだ。脳内セロトニンの不均衡も摂食障害の一因として考えられ始めている。

摂食障害を心の問題とどういう形で絡めるかという問題については(たとえば、嗜癖の問題として扱うか、アイデンティティの問題として扱うかなど)、 研究者によって違うためここでは触れない。しかし、デブは最悪・やせていることが最良とされる現代では、この病気は誰もがなる可能性を十分に持っていると いえるだろう。

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