Thursday, February 16, 2006

鬱病を楽にしよう~壱

1、鬱病とは何か?

な~んてのは、何処のサイトにも書いてある。
が、「欝病ってセロトニンの伝達不良でしょ?」といった誤解のまま読み進められると困るので、ここでまず定義から。

欝病とは一連の症状の塊を指す。

セロトニンの伝達不良というのは、欝病のメカニズムの極々一部であることに注意だ。

其の証拠は、脳内(正確には脳細胞の間)のセロトニン濃度は、抗欝剤を飲んで三十分程度で上がっているのに 三十分では欝病は治らないということ。

実際には効果が実感できるまでに、早くて一週間、ましてや寛解、つまり、取り敢えず欝病前のように日常生活を過ごせるようになること、までには半年~数年というところだろう。

有名な「 DSM―IV」という、アメリカ製診断マニュアルが一般的なので引用してみる。
日本でも医者が患者を診る時の基準に、大抵此れを使っている。

原文は非常にややこしく書いてあるので、内容を省かずに簡単にしてみた。

最近二週間の生活が、以下の症状のうち五つ以上の所為で暮らしにくかったら、重い欝病だ。但し、薬物乱用やケガ、病気などが原因である場合は除く。

気分:ほぼ毎日、一日中憂鬱。または、ほぼ毎日、一日中無気力で、何をやっても嬉しくない。
食欲:ダイエットしてないのに体重が急増/急減した。目安は五%/月。
または、ほぼ毎日食欲がないか、あり過ぎる。
睡眠、ほぼ毎日、よく眠れないか眠り過ぎ。
意欲、ほぼ毎日、焦っているか、または何もやる気がない。
体力、ほぼ毎日、疲れやすいか、または行動を起こすのが億劫。
気分、ほぼ毎日、全てが無価値のように思うか、または根拠のない罪悪感がある。
思考、ほぼ毎日、思考力や集中力がないか、または決断する時に迷い過ぎる。
思考、死について何度も考えているか、または自殺したいと思う。


尚、此れを満たさなかったら健康という意味ではない

欝病の診断には、上記の DSM-IV マニュアル以外にも「ベックの欝病自己評価尺度」など様々なものがある。

原因と関係なく、憂鬱な気分か無気力感がいつまでも晴れない、なら、欝病と考えても間違いではないだろう。
原因と関係なく、だ。

例え脳で、既に充分な量のセロトニンが伝達されていても、憂鬱で無気力で会社に行きたくない状態が続いていたら欝病なのだ。

最近増えてきた、自称鬱病とは違う。
何故なら、鬱病患者は、医者から病名を告げられても仕事へ出かけようとする強迫観念に取り憑かれているし、認めようとしないし、怠けようとしない。

自称鬱病で医者を困らせる詐病鬱病患者は、「だるい、何もする気力が無い、自分は鬱病だ、薬をくれ」とせがむ。怠けようとする。薬を欲しがる。

この点が、厳しいが、詐病と真病との差異なのだ。
自分から「鬱病では?」と言って来る患者のほぼ八割が、血液検査で異常が出ず、因って出すべき薬が無く、勝手に絶望してしまう。

自分で自分を鬱病だと思う人は、精神科でなく、心療内科へ先ず行ってください。処方される薬が全く異なるので、恐らくそちらの薬がよく効くと思います。

2、なぜ抗欝剤が効かないか

此処では、自分は欝病だ、という自覚を持っていると仮定する。
其の程度は問題にしない

わたしが目指すのは、飽くまで治すことだ
そして、治すための方法は重症者でも軽症者でも基本は同じなのだ。

なぜ、抗欝剤が効かないか???と、よく思われる方がいる。
現在主流の抗欝剤は、或る仮定の上に成り立っている。

欝病の原因は、セロトニンやノルアドレナリンの不足であり、それらを補うと欝病は回復する。

セロトニン類が脳細胞に再吸収されるのを邪魔すると、結果的に脳細胞の間にセロトニン類が増えた状態を保てるはずなのだ、というもの。

この仮定を「モノアミン仮説」という。
モノアミンとは、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の総称だ。

もし此れらの仮定が正しいなら、抗欝剤は全ての人に対して、飲んだ三十分後には効果を生んでいるはずだ

だが、実際には「抗欝剤の革命児」とまで呼ばれたプロザックでさえ、効果のある人は飲んだ人のうち六割程度、しかも効果が出るまで二週間以上かかる。

抗欝剤が効かない人はたくさんいるし、効いたとしても即効性ではない。
しかし、其れが何故なのかを分かりやすく扱っている本やサイトは余り無い。
皆が本当に知りたいのは其処なのに、だ。

3、セロトニンのやりとり

脳細胞の間での、セロトニンのやりとりが、上から下の受容体まで、スムーズに移動してくれれば、脳細胞の間に、現在は安心してよい、という情報が伝わる

が、途中で戻ってきてしまうセロトニンもある
此れを再吸収といって、此れが起きると信号が伝わらないため、安心してよいという情報が途切れてしまう

この再吸収があるから、安心してよいという精神状態になれなくて、不安や憂鬱が起きるのだ、というのが 抗欝剤の大事な前提だ。

正常な人でも、放出されたセロトニンの七割が、再吸収側に戻ってきてしまう。

抗欝剤は、この再吸収側の穴を塞いで邪魔をする薬だ。
セロトニンのUターンを邪魔して一方通行にすると、信号が上手く伝わって精神状態が安心するという理屈だ。

では、この仮定が崩れたらどうか。

例えば、

一、セロトニンはあるが、抗欝剤が再吸収口の形に合わないために邪魔できない、

二、セロトニンは作られているし、放出もされているのに、受け取り側へ届く前に壊れてしまい、信号が正常に伝わらない、

三、セロトニンが受け取り側の近くまで正常に届くのに、受け取り側の穴が少なく、感度が悪いために、結果としてセロトニンが受け取られない、

四、セロトニンを作る機会がないのでセロトニンが作られていない、

五、そもそもセロトニンを作るべき材料たるアミノ酸が足りなくて、セロトニンが作れない、


といった場合だ。

例えば、一番目のケースは「抗欝剤をいくら飲んでも効果がない」という形で現れる。
セロトニンの再吸収口は、六種類あるが、その全てを塞げる薬はまだ存在しない
塞いでいない再吸収口から、再吸収が起きている限り、その抗欝剤は効果が無い

六種類の再吸収口とは以下の通り。

S-S
S-L
S-XL
L-L
L-XL
XL-XL


S , L , XL というのは、遺伝子の長さを表す。

セロトニン再吸収口を形作る遺伝子は二つが対になった構造をしているのだが、その各遺伝子がShortかLongかXtraLongかという命名だ。

なお、Sを含む人は環境適応が苦手で不安になりやすい傾向がある。
東洋人の八十%はこのタイプで、中でも日本人ではS-Sの人が最も多い

逆に西洋人はLを含む人が 六十%と多数派である。

二番目のケースを「モノアミンが酵素に酸化させられた」と言う。

モノアミンが酸化させられて壊されてしまうと、受け取り側にセロトニンが伝わらず、結果として欝状態が発生する。
そして、このケースの場合は「モノアミン酸化酵素阻害剤(MAO阻害剤)」という薬を使うと症状が軽くなる。

三番目のケースでは、ECTといって脳に電撃を与える治療法が有効
受容体には十四種類あるが、脳に電撃を与えるとそのうちいくつかの受容体が増えるのだ。

此れ等三つのケース、つまり従来の治療法では、どれも過程こそ変われ、結果的に抗欝剤が効かない

しかも、どの方法も、少ないセロトニンを何とかやりくりする、という対症療法に過ぎず、そもそもなぜセロトニンが減ったのか、減ったものをどう増やすのか、という根本治療ではない

そして、今まで見過ごされて来たのが四番目と五番目のケース。

今までの治療法、つまり再吸収抑制や受容体活性化というのは、セロトニンは少しだけあるが、伝達が上手くいってないだけだ、という前提の上に成り立っている

此れらの治療法は、そもそもセロトニンがなければ意味がなく、伝達のさせようがない

セロトニンが減った原因を解消して、セロトニンを沢山作らせれば、多少再吸収されようが酸化されようが構わない、と考えられるのだ。

4、欝病の原因

遡って考えて、どうしてセロトニンが作られなくなったのか、 について。
仮説だが、答えは扁桃体の興奮し過ぎだ。

扁桃体とは脳の中心近い部分にある場所で、感情を生み出す場所と言われている。
見たり聞いたりして認識した事態に対し、其れが快か不快かを判断する場所だ。

もし、今は不快な状態である、と扁桃体が判断すると、扁桃体が興奮し、扁桃体に多くの血が流れ込む

そして、三つの反応が起きる。

1、扁桃体の刺激は副腎という臓器に伝わり、副腎がコルチゾールというストレスホルモンを出す。

2、危機に対処しなければならない、ということで、副腎から意欲ホルモンであるノルアドレナリンが放出される。

3.今は落ち着いている場合ではない、ということで、癒しホルモンであるセロトニンの放出を抑制させてしまう。

コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、生命維持のために、闘うか逃げるか、という選択への準備を、全身に促す役目をする。

具体的には血圧や血糖値を上げ、食欲を抑制させる。

この反応は、原始時代に人間が生き残るのに必要だったものだ。
不快な状況、生命の危機を感じた時に、闘うか逃げるか、という方法で人間が生き残ってきた名残だ。

原始時代はこれでも良かった。
襲われたら、やられる前にやるか、逃げる。
危機が去ったらそれでOK。
ずっと危機に曝され続けるようなことはなかった。

しかし現代は違う
ずっと不快な状況なんて何処にでもある

例えば景気が悪くていつクビにされるか分からない、という状況など。

問題は、このように、不快ではあるが生命の危機と呼べるほどではない、場合でもコルチゾールが出てしまうことと、このような事態は一過性ではなく延々と続くものであることだ。

事態が継続するということは、扁桃体の興奮が収まらずにコルチゾールが出続け、セロトニン抑制とノルアドレナリン過剰も続くということだ。

そして、ごく短時間ならば肉体の働きを活発にさせる一連の反応も、長時間出続けると悪影響の方が大きくなる。

悪影響とは、先の三反応にそれぞれ対応している。

コルチゾール過剰の悪影響は、なんと言っても、脳の血流を悪くして脳細胞に栄養が行き渡らなくさせてしまうことだ。
其の結果、脳全体の動きが鈍くなり、海馬では脳細胞が死に始める。
頭のぼーっとした感じは、直接的にはこのコルチゾール過剰が原因だ。

ノルアドレナリンの過剰は、やがてノルアドレナリンの不足へと繋がる。
ノルアドレナリンの生産速度には限界があり、備蓄分を放出しきってしまえば枯渇するからだ。
結果として意欲がなくなり無気力になる。

セロトニンの生成が抑制されるということは、安心感や満足感が脳細胞の間に伝わることが減るということである。
結果として不安感や焦りが抑えられなくなる。

欝病の正体は、扁桃体が興奮した結果の此れ等三つの反応である。
決してセロトニン不足ありき、ノルアドレナリン不足ありきではない。

だから、本当の治療とは扁桃体の興奮を抑制することと、その抑制が成功するまで先の三つの悪影響を抑えて時間を稼ぐことだ。

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